最前線で地域医療を守る感染症のスペシャリスト
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いわき市医療センター 副看護師長
飯高 祐子さん
小川 正樹さん
Profile
新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中、感染症に関する専門的な知識と技術を持つ感染管理認定看護師が医療機関で活躍している。浜通り地域の医療連携の中核を担う「いわき市医療センター」で働く感染管理認定看護師※の二人に話を聞いた。
※感染管理認定看護師とは
感染対策における高度な専門知識や実践力をもつと認定された看護師。医療関連感染サーベイランスの実践、施設の状況の評価、感染予防・管理システムの構築などを行う。
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新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐために
ーーーお二人は病院でどのような仕事をしているのでしょうか
(飯高) 私は、院内外で感染の予防と拡大を防止するために様々な活動をしています。院内では全ての部門と連携しながら感染管理に係る組織体制を構築しています。感染対策や管理に関する相談を受けたり、職員の感染対策における意識の向上を図るために教育や指導等を行っています。 院外では、浜通り地区の感染対策の質を向上させるために、保健所や医師会、地域の医療施設と連携し、定期的なカンファレンスを開催したり、地域内の感染に関する問題を解決するための相談を受けたり、教育や指導等を行っています。
(小川) 私の担当は、主に新型コロナウイルス感染症の対策です。職員に対して、個人防護具という手袋とかガウンなどの着脱を指導するなど、患者さんを受け入れる体制を当院に整えながら、いわき市周辺の病院や高齢者施設でクラスターが出た場合には、現地に出向いて支援をしています。
ーーー感染管理認定看護師になったきっかけを教えてください。
(飯高) 看護師として働き始めた頃から、私はずっと目の前にいる患者さんに「何ができるか」を考え続けてきました。少しでもできることを増やしたくて、大学に通ったり、看護研究をしたり、ケアマネージャーの資格を取得したりしていたところ、上司に「認定看護師になってみない?」と声をかけられて、「これが〝今〟できることなのかな」と受け止めて、2015年に資格を取りにいきました。実は、どんな勉強をするのかもよく理解していなくて、前年に資格を取っていた小川さんにいろいろ教えてもらいました。今でも小川さんを本当に頼りにしています。
(小川) まだわからないことも多い医療分野ですが、感染症の分野は、ある程度予防方法が確立しています。今から20年ほど前に尿路感染症で苦しんでいた患者さんに関わって原因菌を特定したことがありました。それ以来、「感染症」には関心があって1998年に感染管理認定看護師の資格ができてから「ぜひ取得したい」と熱意を伝え続け、念願叶って2014年に資格取得の学校に行くことができました。今は自分がやりたかった仕事ができています。
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多くのことを乗り越えてきたから今がある
ーーー新型コロナの感染症拡大後、どのような思いで仕事をしていますか?
(飯高)病院内に感染症が広がると患者さんも職員も不利益を被るので、毎日「なんとかしなければならない」という思いで過ごしています。いまだにコロナは収束する気配がなく、「本当にこれでいいのだろうか」と自問自答することもありますが、仕事のオンオフをうまく切り替え、子どもと過ごす時間も大切にしながら、今後も全力で感染症対策に取り組んでいこうと思います。
(小川)格好つけるわけではありませんが、自分の中には「誰かの役に立ちたい、助けたい」という気持ちがずっとあります。私は、災害派遣医療チームDMAT(Disaster Medical Assistance Teamの略)にも登録していて、そのために得た知識や技術も、今回のコロナ禍では外部支援の際に役立ちました。大変な状況にある現場に行った時は、まず「大丈夫、必ず助けますから」と伝えています。その言葉が「心に響いた」と後からメールをもらったりすると、心から「よかった」と思います。
ーーー看護師を目指す人にメッセージをお願いします
(飯高)私が看護師になったのは、看護師としてやりがいを持って働いていた母親の影響です。東京の学校を卒業し、そのまま附属病院の救急で働いていたのですが、親の強い希望で地元に戻りました。看護師になる人も、最初から、はっきりとした目標がある人ばかりではないと思います。進学のタイミングで進路選択に迷っている人がいたら、「自分にできることはなんだろう」と考えてみてほしいと思います。その時に看護師という仕事が思い浮かんだら、ぜひ挑戦してみてほしいです。看護師として、家族として、求められる役割の中で「できること」を探して、前に進んでいく私のような生き方があることも知ってもらえればと思います。
(小川)私は10代の頃に対人恐怖症のような状態になって、当時通っていた高専を4年で退学しました。その時に相談に乗ってくれた先生に勧められて看護学校に入り、現在に至ります。今になってみれば、看護師として夢中になれる「感染症」という分野に出合えたのは幸せなことです。感染症対策の分野には、数学的な要素があります。監視することで感染症の動向を把握したり、対策の効果を判定したりすることをサーベイランスと呼びますが、データを取るとさまざまなことが「可視化」でき、成果を捉えることができます。本当に「感染症」は幅広く奥が深い世界です。私が手助けできることはしますので、ぜひ多くの看護職の方と一緒に学びたいと思います。
取材者の感想
コロナ第8波で、さぞ疲労困憊しているのでは…と恐る恐るうかがった取材者をおだやかに迎えてくれた二人。実は同学年だそうですが、異なる個性の相手を尊重して「バディ」と呼べそうなやりとりをしていました。ウィズコロナの社会で感染管理認定看護師の役割は、いっそう重要になります。飯高さん、小川さんの他、最前線にいる感染管理認定看護師のみなさんの活躍によって得られた知見により、さらに「感染症対策」は変化し進化していくのだろうと思いました。
ライター 齋藤真弓