奇跡の瞬間に立ち会える助産師は「幸せな仕事」
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南相馬市立総合病院 助産師
阿部 莉奈さん
アベ リナ
Profile
1996年相馬市生まれ。相馬高校卒業後、相馬看護専門学校を経て医療法人社団スズキ病院附属助産学校に進学。国家試験を受け助産師免許を取得した。2019年に南相馬市立総合病院に入職。
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「病院で赤ちゃんのお世話がしたい」と助産師に
入職してから半年ほどは内科や脳外科の入院患者さんを担当して、一通りの看護ができるようになってから、産科メインで助産師として働き始めました。赤ちゃんが無事に生まれると毎回とても充実感がありますし、奇跡的な瞬間に立ち会うことができる幸せな仕事です。
助産師の存在を知ったのは、進路について考えるようになった高校生の頃でした。看護師の仕事を調べているうち、「病院で赤ちゃんのお世話をしたい」と助産師を目指すようになりました。
高校を卒業後に進学した看護専門学校には助産師の先生が二人いて「いい仕事だけど、相当な覚悟が必要だよ」と何度も念を押されました。確かに助産学校での1年間は想像していた以上にハードな毎日で、先生が心配してくれた意味がよく分かりました。
当院への就職を決めたのは、看護専門学校時代の同期が複数人いたり、講師の先生が働いているので安心だと思ったからです。
市内でのお産は減っているのですが、昨年7月に相馬市のクリニックが分娩をやめて当院が扱うお産の件数は増えてきています。看護学校でお世話になった先生の娘さんが出産する時に担当することができて「成長したあなたの姿に安心した」との言葉をいただき、うれしく思いました。
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すべてのライフステージにいる女性を支えたい
出産の立ち会いを終えるたびに反省点を次に活かすようにしていますが、同じお産は絶対にないので、いつでも真剣勝負です。無事に誕生するまでは、緊張して動悸が止まりません。それでもお産は大好きで、先輩と「生まれ変わったら、どんな仕事をする?」という話になった時には、「いろいろと考えると、やっぱり同じ助産師かな」という結論に達しました。そういえば、看護専門学校の先生たちも「生まれ変わってもまた同じ仕事をしたい」といつも話していたものです。
最近、私が心がけているのは「自分の思いを押し付けない」ことです。当院では母乳育児を推奨していて、メリットが多いことを知っているからこそ、私も強く勧めていたのですが、最初から「ミルクと混合にしたい」「ミルクだけで育児したい」という考えのお母さんもいるので、それぞれの事情や気持ちに配慮した上で関わらなくてはならないなと思うようになりました。
今後は、周産期だけではなく、妊娠初期からすべての経過を見ることができる助産師になりたいと思っています。さらには、婦人科の患者さんも含めてすべてのライフステージの女性をケアできる助産師になれるように、これからも経験を積み重ねていくつもりです。
取材者の感想
南相馬市内で分娩できる施設は、この病院の他にクリニックが一つだけ。近隣市町村から通院する妊産婦さんも増え、安心して子どもを産める地域を阿部さんを始めとする約10人の助産師さんたちが支えています。「最近は、先輩や同級生が来院することが増えて、見守ることができてよかったなと思います」と話す阿部さん。そのゆったりと落ち着いた口調からは、出産という「人生の一大事」には欠かせない、やさしさと包容力を感じることができました。
ライター 齋藤真弓