INTERVIEW

看護師インタビュー

精神科病院の訪問看護で切れ目ない医療につなぐ

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公益財団法人 金森和心会 雲雀ヶ丘病院 外来師長

齊藤 博英さん

サイトウ ヒロヒデ

Profile

1969年、南相馬市鹿島区生まれ。陸上自衛隊勤務を経て双葉准看護学院に入学。その後、看護助手として雲雀ヶ丘病院に入職。2009年に東北福祉看護学校(通信制)に入学。2011年に看護師の国家試験に合格した。認知症治療病棟の師長を経て、現在は外来師長を務めている。

  • 被災者のメンタルに配慮しながら自衛隊活動に参加

    高校を卒業して私が最初に就職したのは陸上自衛隊です。衛生科所属で3年間働いた後に退官して地元に戻り、資格を取るために双葉准看護学院に入学。働きながら学ぶため、同時に看護助手として雲雀ヶ丘病院に入職しました。それから30年近く当院で働いています。

    私は「即応予備自衛官」に登録していて、大規模災害などの時には自衛隊に招集されることになっていました。東日本大震災で当院の患者さんは県内外の病院へ転院しましたが、私は病院の避難には関わることなく宮城県石巻市や東松島方面で行方不明者の捜索活動に参加することになりました。被災者の方と接する時には、メンタル面の配慮がとても大事です。自分自身がどんなに大変な状況であっても、それを感じさせてはいけないと肝に銘じて活動に参加しました。

    震災があった時、私は看護師国家試験の結果を待っているところでした。患者さんを避難させた後、当院は休院し、この先どうなるのか分からない状況の中で「合格」の知らせを聞きました。あの時合格していなかったら、「自分は看護師を続けていただろうか」と思うことがあります。

    自衛隊としての活動は3ヵ月ほどで終了し、重機で瓦礫撤去をするアルバイトをしていた頃に、病院再開の知らせが届きました。病棟の再開後、新たに認知症治療病棟の立ち上げに伴い師長となり、現在は外来師長と訪問看護を担当しています。

  • 服薬を継続できれば患者さんの多くは自宅で暮らせる

    朝は、外来でミーティングをして1日の流れを確認し、調整を済ませて訪問看護に出かけます。訪問する患者さんは、当院で入院治療を終えて自宅に戻った方や通院治療中の方で、身体ケアよりも服薬指導や生活指導が中心です。精神科の患者さんは服薬の継続で、おだやかに自宅で暮らせる方がたくさんいます。大切なのは、切れ目なく「医療とつながっていること」です。患者さんのささいな変化に気づくためにも、私はコミュニケーションを重要視しています。まずは、話を聴くこと。また、患者さんは看護師の言葉の一つひとつに敏感に反応しますので、自分の言葉づかいには気をつけています。否定的な態度や言葉で接すれば、患者さんもかたくなになります。お互いに心を開いて話ができる関係性を築いていきたいと思っているので、患者さんから「顔を合わせるだけでもいいから、また来てください」と言われるとうれしくなります。

    精神科の看護は、入職した頃から大きく変わりました。以前は精神科での訪問看護自体が一般的ではなかったので、私がこういった業務に携わるとは思いもしませんでした。入院治療からの地域移行は国の方針でもあり、これからさらに医療機関同士や介護・福祉との連携が必要になってきます。患者さんとそのご家族が安心して地域で暮らせるように、信頼関係を築きながら、これからも看護師として自分の役割を果たしていきたいと思っています。

取材者の感想

現在、雲雀ヶ丘病院の訪問看護師は齊藤さん一人ですが、精神保健福祉士と連携し基本的に二人体制で地域をまわっています。「二人で訪問した方が、違う角度から患者さんの話を聴くことができるので早めに変化に気づくことができますし、急激な病状の悪化にも対処できます」と齊藤さん。単身世帯で病院からの訪問看護を心待ちにしてくれている患者さんも多いそうです。

ふと、健康的に日焼けしている齊藤さんを見て「何かスポーツをしているのですか?」と聞くと「休みの日は農業をしています」と笑顔で教えてくれました。病院以外での幅広い人生経験は患者さんとのコミュニケーションにも大いに役立ちそうだなと思いながら取材を終えました。

ライター 齋藤真弓
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