INTERVIEW

看護師インタビュー

地域医療の存続に向けて具体的な提言を続けよう

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南相馬市看護管理者会議(MNDC)会長 医療法人社団青空会 大町病院 看護部長

藤原 珠世さん

フジワラ タマヨ

Profile

看護職員の育成・確保・定着とスキルアップを図るために、南相馬市の5病院(南相馬市立総合病院・小野田病院・鹿島厚生病院・雲雀ヶ丘病院・大町病院)で2017年に活動を開始した南相馬市看護管理者会議(以下、MNDC)。これまでの活動の成果や今後の取り組みについて、会長の大町病院・藤原珠世さん(写真前列中央)に話を聞いた。

  • 他県から看護師や学生を呼べるシステムづくりを

    MNDCがスタートするまで、中学生を対象とした事業「看護のお仕事説明会」は南相馬市立総合病院が単独で実施していました。この事業を、雲雀ヶ丘病院をのぞくMNDCの4病院で分担することになり、各病院の看護師たちが、中学生に看護職の魅力を伝えています。また、年に2回行われた高校生向けの「看護のお仕事説明会」や「市主催合同就職説明会」には、MNDC5病院すべてが参加して地元の若い世代に対してアプローチしてきました。

    しかし、南相馬市の少子高齢化は急激に進んでいます。さらなる若者の減少が予測される中で、2025年を目途に構築がうながされている「地域包括ケアシステム」の実現にむけた看護職の人材確保は喫緊の課題です。MNDCでは、今年度、東京で街宣活動をしたり、仙台や水戸方面の学校訪問を行って人材確保に努めてきました。さらに今後は、首都圏など、他県から看護師や奨学生募集で学生を呼ぶことができる現実的なシステムづくりが必要になってくるでしょう。

    都内では准看護師の養成校が閉鎖されつつあります。例えば、シングルマザーを南相馬市に迎え入れ、双葉准看護学院で資格が取得できるように支援するのです。母子を迎える場合に、保育所や住居の確保・学費の補助ができないものかと、MNDCとして南相馬市長に提言しています。また、これまで市立病院が独自に取り組んできた看護師の復職支援も他病院でもやることになりました。

    看護師が足りないから「なんとかしてほしい」と行政に訴えるだけでは状況は変わらないのです。なにをすればこの地域に看護師が集まるのか。何をすれば看護師が働き続けることができるのか。具体的に提言し、自分たちMNDCも動いていかなければならないのだと思います。

  • 南相馬市が一つになる「地域完結型医療」の実現に向けて

    政府が「東日本大震災からの復興の基本方針」で定めた「復興・創生期間」は2020年度で終了します。しかし浜通りの少子高齢化は10年前倒しになったと言われていて、看護職だけではなく、介護職、そして医師の不足も深刻で、医療ニーズに充分応えきれない状況が続いています。

    この地域では、一人の患者をターミナルまで一つの医療機関で診る「完結型医療」の提供が難しいのです。それならば、それぞれの病院や診療所・クリニック等が専門性を活かした連携をして、南相馬市の医療機関全体で1つの病院のような機能を持つ「地域完結型医療」の体制づくりをしていけばいいのです。連携するためには、「うちの病院はこれができるよ」「今日はベッドが空いているよ」と各病院で臨機応変に振り分けできるスキームを作っていく必要があります。さらに、消防署との連携ができれば、救急搬送の受け入れもスムーズになります。

    復興にほど遠い現実が南相馬市にあるからこそ、私たちは、これから先も国・県・市の行政と協働して地域医療を存続したいのです。MNDCでは、2019年度も、できることを一緒に考え実行していけるように、働きかけていくつもりです。

取材者の感想

MNDCが提言していた南相馬市立総合病院から民間病院の「在籍出向」は、市と協議を重ね、実現する方向で検討しています。MNDCのアイデアは、少しずつ、しかも着実に受け入れられ、南相馬市の医療環境に変化をもたらしてきました。こうした動きは、MNDCのメンバーが県内外で講演などを行う度に、様々な形で紹介していて注目を集めているそうです。

さらにIターン、Uターン希望者がいそうな場所で、南相馬市の各病院のパンフレットを積極的に配るなどの地道なリクルート活動もしています。その理由を、「自分の病院だけ良ければいいというのではなく、地域全体が良くならないと意味がないから」と藤原会長は話していました。MNDCの活動から見えてくるのは、連携すること、あきらめないことの大切さ。地域の人たちを思う看護師さんたちの力強さを感じました。

ライター 齋藤真弓