INTERVIEW

看護師インタビュー

精神科の看護師として大切にしていること

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公益財団法人 金森和心会 雲雀ヶ丘病院

外来・菊地美帆さん

キクチミホ

病棟・森 久江さん

モリ ヒサエ

Profile

勤続4年、院内で最若手ホープの菊地さんと、30年近い勤務歴のある森さん。福島第一原子力発電所以北で震災後も県内で唯一稼働している精神科病院でいきいきと働く二人に、仕事の魅力について教えてもらった。(写真左から菊地美帆さん、森 久江さん)

  • 「わからない」不安はチームワークで解消

    ーーー雲雀ヶ丘病院に入職したきっかけは?

    【菊地】 実家が大熊町で、弟の高校進学を機に「家族で家の近くに戻ろう」と浜通りで仕事を探しました。私は看護学生時代、精神的に辛かった時期があって、通っていた心療内科の看護師さんのやさしさにふれて回復できた経験があります。この時に「心」に寄り添う大切さを実感していたので、精神科を選びました。

    【森】 私は高校卒業後に「家から近いし、知り合いが勤務しているから」という理由で当院に入職しました。今はなくなってしまったのですが、最初に配属されたのが「女子閉鎖病棟」で、医療の知識がなかった当時は驚くことばかりでした。それでも和気あいあいとした雰囲気の病棟で先輩職員が丁寧に仕事を教えてくれて、仕事に慣れることができました。働きながら准看護師・正看護師の資格を取得しました。

     

    ーーー精神科ならではの難しさはありますか?

    【菊地】 看護学校時代は、精神科に「こわい」イメージがありました。実習は短期間なので、急性期の患者さんの症状を目の当たりにすると、強烈な印象が残ってしまうのだと思います。でも、当院に勤務して4年が経った今は、そういうイメージはありません。

    【森】 「こわい」のは、患者さんの接し方が分からないからです。病気や背景など、一人ひとりの個性を理解することができれば、看護の不安はぐっと減ります。精神科は、患者さん一人ひとりの症状が多様です。例えば「こんな言動が出た後には、具合が悪くなることが多い」というサインがあるので、そういった情報を職員が共有して看護にあたることが大切なのです。私自身も、正看の資格取得のために他の病院で実習した時は、精神科の経験が長いにもかかわらず、患者さんとの接し方がわからなくて不安になりました。

    【菊地】 当院は、不安を感じた時に、遠慮なく先輩の看護職員に聞きやすい雰囲気があります。それに私は随分と助けられてきました。最初の頃は、患者さんの強い言葉に傷ついて涙してしまうこともありました。その都度、なるべく抱え込まずに、他のスタッフに話すようにしていたのですが、必ずみんなから「病気がさせる言葉だから」と返ってきました。頭では分かっているつもりだったのですが、改めてみんなに言われると納得できるようになり、「病気なんだから看護職として私が何をできるか考えよう」と気持ちを切り替えられるようになりました。

  • 看護師の仕事に「やりがいを感じる」瞬間

    ーーーお二人は看護にあたる上でどんなことを大切にしていますか?

    【森】患者さんの話を良く聞くことです。時間には限りがありますし、要望すべてに応えられないのですが、叶えられるように努力します。よく精神科の医療スタッフは「役割をもって患者さんに接した方がいい」と言われます。威厳のある父親のような存在、包み込む母親のような存在。そして、話を聞いて親身になってくれる姉のような存在。私は「お姉さん役ならできる」と長年患者さんに接してきました。つまり厳しい指導ができないのですが、できないことを他の人にお願いできるチームワークが当院にはあります。また、もう一つ大切にしているのが、患者さんの家族支援です。精神科では、退院後の家庭環境がとても大切なので、ご家族に病気を理解してもらえるように面会に来た時にお話をしています。

    【菊地】私も「患者さんの話を聞ける看護師になりたい」のですが、2年前に病棟から外来に移ったので、ゆっくりと話ができません。外来は患者さんの年齢層も幅広く、2〜3歳の子どもから90歳以上の方もいて、対応が本当に難しいなと思いました。子どもの患者さんの場合は、お母さんも問題を抱えているケースもあります。森さんの言うように、家族全体をみないといけないのですが、診察室を出た後は患者さんの様子が分からないという、もどかしさも感じています。それでも今は少し余裕が出てきたので、できる範囲ではありますが、短時間でも患者さんの表情や行動をきちんと観察し、ちょっとした変化にも気づけるように努力しているところです。

    ーーー看護師でよかったと思うエピソードを教えてください。

    【森】病室に入った時に、患者さんから「森さんは言葉がやわらかいから、話をしやすくていいよね」と声をかけられたことがあります。自分なりに考えて続けてきた看護を、ちゃんと患者さんが認めてくれていたんだと、うれしく感じました。また、仕事をしている時以外も、なるべく人にやさしく接したいという気持ちがあります。先日は、近所の人が畑で突然左麻痺が来てグルグルまわって立ち上がれなくなっていたのを見つけました。命にかかわることが目の前で起きた時、ためらうことなく救急車を呼んで搬送することができたのは、私が看護師だったからなのかもしれません。看護師を続けてきたことで、一人の人間としても成長することができたと思います。

    【菊地】私は外来で予約電話も受けるのですが、ある日、患者さんのご家族に笑顔で「予約の電話を受けたのはあなたでしょ?」と言われました。「あなたの明るい声を聞いて、助かった〜!と思ったんですよ」と言葉をかけられて、とても励みになりました。顔が見えないからこそ、電話は声のトーンが大切だと意識しています。また、年配の方に「あなたの笑顔いいね」と言われたこともあります。

    【森】看護師は大変なこともある仕事です。それを一つひとつ乗り越えていくことで、自分の看護観に生かすことができますし、人生経験をすべて看護に役立てることができます。例えば病気の家族がいれば、患者さんの家族の思いもよく理解できますし、かけがえのない人として患者さん一人ひとりをみることができるはずです。私は、看護師になってよかったと、心から思っています。

取材者の感想

かつて4つあった病棟を1つにして継続している雲雀ヶ丘病院。東日本大震災の影響により、依然として看護職不足が続いていますが、今年4月には「福島県次世代育成支援企業」の認証を受けています。これは相双地域の医療機関では初めてのこと。少ない人数の職員で助け合いながら、地域医療の実現にむけて懸命に取り組んでいる病院の様子がうかがえます。森さんと菊地さんも、年齢差を超えて支え合う同志のように見えました。明るく仕事の魅力を話す二人の笑顔に、元気をもらえる取材でした。

ライター 齋藤真弓
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