INTERVIEW

看護師インタビュー

ステップアップを支え病院全体で人を育てる

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医療法人社団茶畑会 相馬中央病院 看護部長

庄司 幸恵さん

ショウジ ユキエ

Profile

相馬市出身。双葉准看護学院の教員などを経て2006年に現在の職場へ。2009年より看護部長。病院勤務のかたわら相馬看護専門学校などの養成校で後進の指導も行う。東日本大震災の経験を伝えるために災害看護の講師として県外に赴く機会も多い。

  • 看護職の資格取得を全面的に応援

    相馬中央病院は、病床数97の一般病院です。内科・整形外科・泌尿器科・眼科・皮膚科・歯科口腔外科などの診療科目と内視鏡センター・人工透析センターを備えており、特に糖尿病の患者さんへの支援に力を入れてきました。もし糖尿病で目の治療や人工透析などが必要になった場合にも、継続して治療を続けられる体制が整っています。

    原発事故後、相馬市と隣の南相馬市民が糖尿病を発症するリスクは、最大6割増えたとも言われています。合併症の予防や進行の抑制には患者さん自身による血糖コントロ-ルが欠かせません。現在、当院には糖尿病の患者さんが約700人通院しており、患者会の活動も盛んに行われています。当院では、50人いる看護スタッフ(正看護師25人・准看護師25人)のうち11人が糖尿病療養指導士の資格をもち、きめ細かな自己管理の指導や知識を患者さんに提供しています。病院では、このような専門的な資格を看護職が取得することを積極的に推奨し、全面的にバックアップしています。

    当院では昭和58年の設立時から働きながら正看護師を目指す准看護師の応援もしてきました。例年3~4人が働きながら放送大学や仙台市内の看護専門学校で学んでおり、スクーリング(通学)の際は業務扱いで送り出しています。

  • 成長を喜び合える「人づくり」を

    病院で働くと専門的な知識は自然と身に付きます。ステップアップのために国家試験や大学院を受験する職員が苦労しているのが、実は英語や数学などの基礎的な科目です。限られた時間のなかで勉強をしている職員を応援しようと、病院では昨年から独自の勉強会を始めました。講師は当院のドクターが、こころよく引き受けてくれました。

    勉強会の結果はすぐに現れました。各自が苦手とする分野を洗い出し、ドクターが効率的な勉強法を教えたところ、飛躍的に模試の成績が向上したのです。本人はもちろんですが、それを聞いた病院のスタッフみんなが大喜びしました。さらに、その評判を聞いた他の職員が「自分の子どもにも教えて」と勉強会に参加させるようになりました。そのうち一人はこの春、難関国立大学に合格し、うれしい成果が広がっていきました。

    こういった取り組みの基本にあるのは、次世代を病院ぐるみで「育てていこう」という意識です。子育てしながら仕事をする看護職も大変です。そこで、夏休みなど子どもたちの長期休暇には病院内に居場所を作ったり、収穫体験(田植え体験)や職場見学会などを開催して、親子とも安心して過ごせる環境を整えています。その際には保育士・幼稚園教諭の資格をもつ病院スタッフが子どもたちに関わっているのも大きな特徴です。

    医療の現場はチームワークが大切です。看護師だけでなく医師や薬剤師、検査技師など、病院スタッフ全員の顔と人柄が分かる規模の病院だからこそできることがあります。お互いの成長を支えあい、喜びあえる環境での「人づくり」で、人材不足を補っていくことができればと思います。

取材者の感想

「看護職は10年続けてみないと分からない楽しさがある」と看護部長の庄司さん。仕事に煮詰まったときの特効薬は、「次の目標を見つけること」だと話します。ご自身も看護教員の経験を経て、30年にわたり看護職にかかわってきました。かつての教え子が一人前の看護師になって頑張っている姿が何よりの励みになるそうです。

「いつか退職する時には、臨床にいたい」と病院勤務に戻って10年、日々患者さんとふれあいつつ後進の看護職の育成にも力を注いでいます。

人材不足のなかで、看護職は新人であっても即戦力が求められます。「白衣を来ていれば新人もベテランも同じく見られる」病院内で、自分を見失わずにステップアップしていくには、よき指導者の存在が不可欠です。「駆け足でなくてもいい、自分には何が向いているのかじっくりこの病院で見つけてほしい」と話す庄司さんのやさしい眼差しが印象的でした。

ライター 齋藤真弓