元気な人が増えれば、まちが元気になる!南相馬市で看護職を目指す人、応援します
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南相馬市健康福祉部健康づくり課 課長
高玉 利一さん
たかたま としかず
Profile
南相馬市原町区出身。現職3年目。東日本大震災発生から3年間は南相馬市建築住宅課で、仮設住宅と復興公営住宅建築に向けて奔走した。ハードからソフト部門に持ち場を変えて、さらなる復興を目指す。
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いまだ100人の看護職が不足。震災後に再開できないクリニックも
南相馬市の看護職不足は、2011年の東日本大震災とその後の原発事故で一気に拍車がかかりました。子育て世代を中心に多くの看護職が、市外へと避難したからです。2014年時点の調査によると、震災前に比べて看護職の数は70%に減少しています。先に避難した家族と暮らすために退職するようなケースもあり、5年が経過した現在にいたっても流出に歯止めが利きません。
今年3月、市内の医療機関に対して看護職の充足状況を調査したところ、およそ100人、不足していることが分かりました。震災前には市内に47件あった医療機関が、現在は34件にまで減っています。そのなかには、看護職が確保できないために休業を余儀なくされているクリニックもあります。
地元で働く看護師を育成するために、震災後、市では「看護師等修学資金貸与事業」を始めました。これは、看護師等の養成機関に通う学生に、最高で月10万円(授業料+生活費相当)の修学資金と入学資金を貸与するものです。この修学資金は、該当する資格を取得後に市内の医療機関で働くことで、返還が全額免除されます。2015年度は利用者の8人が卒業し、うち6名が南相馬市内の医療機関に就職しました。少しずつではありますが、効果は現れているのではないかと思います。
また、市内に就職を希望する人に向けて看護職・介護職合同の「合同就職説明会」を年に2回、実施しています。今年初めて実施した『高校生向けの就職説明会』には、約20名が参加しました。各医療機関のブースで学生が人事担当者と向き合い、看護師の資格取得方法や、その他の専門職や医療事務の職務内容についても詳しく意見交換をしていました。看護職に関心のある学生に対して具体的に使える制度などを説明できるよい機会になったようです。
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市内の中学2年生全員に、看護職について学ぶ機会を
看護職を目指す若い人をもっと増やしたい・・・その手法を行政が医療機関と話し合うなかで、「高校生への働きかけでは遅過ぎるのではないか」という意見が出ました。高校進学の時には、すでに将来像を描いて進路を選んでいる生徒が少なくないからです。
そこで、昨年度は南相馬市立総合病院の全面的な協力のもと、市内の全中学2年生を対象とした「看護師の仕事を学ぶ学習会」を実施しました。全員参加なので、看護職には全く興味のない生徒もいたかもしれませんが、病院やクリニックに行ったことがない人はいないはずです。そこで働く側の視点から社会学習ができることには大きな意義があります。看護職がチームで試行錯誤しながら「どうすれば中学生に伝わるのか?」と考えながら、やりがいであったり、社会の中での大切な役割について伝えていったところ、多くの中学生に好感をもってもらえたようです。
明るいニュースもあります。これまで市内に看護職の養成校はありませんでしたが、震災の影響で休校していた『双葉准看護学院』が来春、南相馬市で再開することになりました。場所は福島県立テクノアカデミー浜の東側です。実施主体は双葉郡市町村会ですが、私たち南相馬市職員も協力しながら準備を進めています。准看護師の養成校は修学期間が2年なので「即戦力になるのでは」と、地元クリニックから期待を寄せる声がすでに聞こえてきています。この学校には、若い世代はもとより子育てが一段落した世代にも関心をもってもらいたいと思っています。資格を取得して、ぜひ多くの方に看護職に就いていただければ幸いです。
まちが元気になるには、元気な人が増えなければなりません。そのカギを握るのが、看護職をはじめ保健医療のスタッフです。ぜひ多くの方に、現状をご理解いただいて南相馬市復興の力になっていただければと思います。
(写真は南相馬市健康福祉部 健康づくり課のみなさん)
取材者の感想
「看護職に関心をもってもらいたい」と始めた中学生への取り組みでは、南相馬市立病院の看護師が患者役・看護師役になってロールプレイを行い、一つひとつのケアの意味について丁寧に解説したそうです。このような真剣に仕事に向き合う大人の姿こそ、多感な時期の心に響くものがあったのではないかと思います。
南相馬市健康福祉部健康づくり課も人材が足りず、県から保健師の応援派遣を得てやりくりしていると聞きました。若い世代の育成とあわせて、有資格者の職場復帰にも期待したいところです。
ライター 齋藤真弓