INTERVIEW

看護師インタビュー

心と身体の健康を支える保健師として地域で働く

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南相馬市健康福祉部健康づくり課 保健師

横田 夏美さん

ヨコタ ナツミ

荒 奈央子さん

アラ ナオコ

Profile

2019年4月南相馬市に採用され健康づくり課健康推進係に配属された二人。共に浪江町の出身で東日本大震災の発災時は中学2年生だった。県外の大学を卒業し働き始めて約1年。保健師になったきっかけ、現在のやりがい、目指している保健師像などを聞いた。(写真左から横田 夏美さん、荒 奈央子さん)

  • 大学進学まで詳しく知らなかった「保健師」

    ーーー現在の仕事内容について教えてください。

    【横田】市の保健師は、妊産婦から高齢者まで幅広い世代に関わりますが、私たちが所属している「健康づくり課 健康推進係」は、青壮年期から高齢期を対象としています。具体的には地域で行われる健診での保健指導や地域や企業での健康教育、健康相談などで、健診で精密検査が必要になった方を個別に訪ねての受診勧奨などもします。あらゆる事業で住民の方との関係性を築いて、健康面をはじめ「その人らしく地域で生活していく」ために必要な支援を見いだし、関係職種、関係機関と連携し調整していくことが大切です。

     

    ーーー南相馬市の現状について教えてください。

    【荒】市の人口は現在約6万人で、震災後に約1万2千人減少しました。高齢化率が10%程度上昇し、出生数は10年前の約半数です。震災による生活の変化等で生活習慣病が増加していますので、その予防であったり、放射線の健康不安の軽減、さらに心の健康づくりにも力を入れています。心の健康のために、精神科医師や臨床心理士が個別に応じる「こころの健康相談会」を開催するとともにに、私たち保健師も電話や来所、訪問等で相談を受けています。

     

    ーーーなぜ保健師になろうと思ったのですか?

    【横田】震災後は県内外で避難生活をしました。避難所や仮設住宅に健康状態を見てくれる専門職が入っているのは知っていたのですが、大学に入ってから授業を聴いて「あの時の人たちが保健師だったんだ!」と知りました。自分が避難生活を経験したからこそ、大変な時に「誰かの役に立てる人になりたい」と強く思ったのが、保健師を目指すようになったきっかけです。

    【荒】小さい頃から漠然と医療系の仕事に就きたいと思っていたのですが、自分自身が避難生活を送る中で「医療や福祉の知識が欲しい」と切実に感じました。その後、進学した大学の授業で、保健師は「赤ちゃんから高齢者まで幅広い世代を対象とした仕事」であること、「地域の住民に近い存在であること」を知って魅力を感じ、保健師資格が取れるコースを受講しました。

  • 「あなたがいてよかった」と言われる存在に

    ーーーどんな時やりがいを感じますか?また、どんな保健師になりたいですか?

    【横田】私が感じるやりがいは、大きく3つに分けられます。まず「地域の方と濃密な関わりができる」こと。健康状態や家族関係など踏み込んだ内容を話してもらえるのは、私が保健師だからこそだと思います。また、自分が「日々成長している」ことを感じています。最初は住民の方にどう話しかければいいのかさえ分からなかったのですが、最近は世間話も交え自然に質問をできるようになりました。さらに仕事を通して「毎日新しい発見」があります。先輩方の話は雑談からも学ぶことが多いので、全部吸収して自分の引き出しにするつもりです。保健師として「あなたがいてくれてよかった」と一人でも多くの市民に思ってもらえるような存在になりたいと思います。

    【荒】私は住民の方と信頼関係が築けるとやりがいを感じます。訪問した当初は拒否的だった方が、帰り際になって「今日は来てくれてよかった」、「また話を聞いてね」と言ってくたり、直接「ありがとう」とお礼の言葉が聞けることもあります。大学の講義では「住民の方は病院ならば選べるけれども、地域の保健師は選ぶことができない。その自覚を持って仕事をしなさい」と教えられてきました。だからこそ「あなたが担当でよかった」と思ってもらえるような人になりたい。そして、住民の方だけでなく他職種からも信頼される保健師になりたいと思っています。

    ーーー浜通りに戻って良かったことはありますか?

    【横田】現在は南相馬市内で家族と暮らしています。小さい頃から住み慣れた浪江町とほぼ同じ気候なので過ごしやすいです。人口が多い市の仕事は内容も多種多様で、色々な経験を積み重ねることができています。自分から積極的に学ぶ姿勢を崩さずに、2年目からも頑張ります。

    【荒】地元で就職するつもりで大学は県外に出ました。県外にいると「復興が進んでいる」というような報道が多かったのですが、長期休暇で戻ってくる度に「まだ支援は必要」と感じる場面がたくさんありました。微力でも仕事を通じて浜通りの復興の役に立てることがうれしいですね。

取材者の感想

南相馬市では、新人保健師に先輩保健師がマンツーマンで指導するプリセプター制度を導入しています。疑問や不満を積み上げずに、先輩にこまめに相談できる環境があれば、現実的な対処法を身に付け、スムーズに成長していくことができそうです。「入職1年目ですぐに専門的な仕事ができるようになるわけではありません。南相馬市健康づくり課には、現時点で総勢17人の保健師がいますが、この先、計画的に保健師を募集し育成しています」と岩城啓子係長は話していました。

実は取材者自身も社会人になるまで保健師の仕事内容はきちんと知りませんでした。予防の視点から、地域の健康づくりに取り組む保健師は少子高齢化が進む現在の浜通りに必要不可欠な存在です。看護職を目指す人の選択肢に加え、ぜひとも検討してもらいたいなと思いました。

ライター 齋藤真弓