地域連携で実現する個別性をふまえた看護
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福島県ふたば医療センター附属病院 副院長兼看護部長
児島 由利江さん
コジマ ユリエ
Profile
1956年福島市生まれ。福島県立医科大学附属看護学校を卒業後、小児・内科・外科病棟に勤務。32歳で厚労省看護研修研究センター看護師養成過程を修了、県立医大附属病院で実習指導や教務に携わった。その後、福島県庁で看護職員の養成・確保担当、県立医大附属病院の電子カルテ導入担当などを歴任。2013年の会津医療センター立ち上げにも関わり、副院長兼看護部長を務めた。
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救急医療から在宅医療まで切れ目なく
今年4月に富岡町に『ふたば医療センター附属病院』が開院しました。ふるさとに帰還した住民をはじめ、復興事業従事者の健康を守る医療・信頼される医療をめざし、地域住民とともに歩みます。日常的な「かかりつけ医」は、再開した地域の病院や診療所に担っていただいて、当院は一次救急、高度医療や専門医療を必要としない二次救急と、在宅復帰支援、在宅診療を担当していきます。高度な医療や専門医療が必要なケースでは、当院から多目的医療ヘリで福島県立医大附属病院などに搬送します。富岡町から救急車で2時間近くかかる県立医大附属病院へも、ヘリなら15分です。また、休日や夜間など地域の医療機関が開院していない時の急病に24時間、365日対応します。
一般的な医療は、救急から回復期、慢性期があって在宅という流れですが、当院は「急性期」の次が「在宅」であることが大きな特徴です。退院後は、地元のかかりつけ医に紹介しますが、継続的な支援が必要な方は当院での通院や在宅診療につなげます。
私がよく職員に伝えるのは、看護の対象者を「生活者としてとらえてほしい」ということです。急性期から「在宅で療養を継続可能にしていける」よう働きかけていく必要があります。例えば、高齢で一人暮らしの方が退院した後も自宅で「服薬の管理ができるか」、「食事で栄養がとれるか」、「運動ができるか」。それらをどうすれば実現できるのか入院中に話し合い一緒に考えます。退院時には、外来の在宅支援担当看護師がカンファレンスを設け、在宅で元気に長生きしてもらえるように、さまざまな手段を協議しています。事例によっては介護の方にも来てもらいます。
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病気を持っても、ふるさとで元気に長生き
WHO(世界保健機関)は「ヘルスプロモーション」という考え方を提唱しています。これは、「人々が自らの健康と決定要因をそれぞれがコントロールし、改善できるようにするプロセス」で、例えば糖尿病の方は、食事や運動などの生活習慣を改める必要があります。しかし、どれほど看護師が熱心に働きかけても、その方自身が健康管理の考え方や捉え方を変えないことには、行動変容するのが難しいのが事実です。病気は、本人の捉え方によって、良くもなるし悪くもなります。一人ひとりに、いかに働きかけていくか。100人いたら100通りの人生があり、看護師は、個別的な対応が求められます。私も看護部長として外来や病棟に出入りしていますが、常に考えているのは、「この人のために、私は何ができるのだろう」ということです。その人がどういう考え方の人なのかをきちんと受け止め、サポートし働きかけることが重要です。これは、外来でも、病棟でも、訪問看護でも、同じくつないでいけるように考え方を共有したいと思っています。
「病気を持っても地元で元気に長生き」するためには、自分自身による「自助」だけでなく、家族や地域住民の協力による「共助」、そして私たち医療関係者や公的機関による「公助」が必要です。それがあれば相乗効果が高まり、継続します。開院から半年は無我夢中でしたが、少し落ち着いてきたので、そろそろ地域の保健師さんに集まってもらって、どうすれば双葉郡の高齢者を元気にできるか話し合いをしたいと思っています。地域全体の取り組みを形にすることが、今の私の目標です。
取材者の感想
2013年の会津医療センター立ち上げに関わり、副院長兼看護部長を務めてきた児島さん。県立医大附属病院では、電子カルテ導入、病病・病診連携担当など、「新しい取り組み」に関わる機会が多かったそう。「ずっと臨床にいると思っていた」20歳代の頃には想像も付かないほど、たくさんの経験を積み重ね、目の前の課題には「出来るか出来ないかじゃなくて、やるかやらないか」というスタンスで体当たりして全力を尽くしてきたエピソードは、まるでドラマのようです。
そんな児島さんの心の中にあったのが、高校時代の恩師に言われた「チャンスの神様は前髪しかない。だから、迷わずつかみ取りなさい」という言葉。「チャンスかどうかは、その時は分からない。でも、歳月が経つとあれがそうだったんだなと思い当たるのです」と児島さん。「人生って本当に面白い。経験したことは無駄にならなくて、全部つながっているんですよ」と振り返ります。すべての知識と経験を生かし切った「ふたば医療センター附属病院」立ち上げは、看護師人生の集大成。少子高齢化が進む日本の新しい医療機関の形としても、注目を浴びそうです。
ライター 齋藤真弓