INTERVIEW

看護師インタビュー

患者さんとその家族に看護を通して寄り添う

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南相馬市立総合病院 脳卒中センター地域包括ケア病棟

佐藤 朱美さん

サトウ アケミ

Profile

秋田県生まれの青森県育ち。八戸市の看護専門学校を卒業後、婦人科、急性期、療養型、終末期、訪問看護など多岐にわたる看護の現場で経験を積む。平成28年に八戸市民病院を退職、平成29年4月に南相馬市総合病院に入職。整形外科病棟を経て、昨年9月に開設した地域包括ケア病棟に勤務している。

  • 在宅生活につなげていくための支援

    地域包括ケア病棟には、急性期を脱し病状が安定したけれども、自宅で暮らすには不安があるという患者さんが入院しています。入院中に介護保険制度の申請を進めたり、ご家族を交えた指導で生活に必要な介護力を高めながら、リハビリも行います。入院できるのは60日間ですが、その期間を一気に使うのではなく、自宅の環境が整ったら一旦退院し、残り期間を後から利用することもできます。例えばターミナル(終末期)の患者さんが一時的に退院した後、レスパイト(介護者の負担軽減のための一時預かり)のために再入院するというような使い方もされています。

    家族指導やリハビリを受け、自宅で安定して暮らせるようになる方も多いのですが、月に何人かはターミナルの患者さんにも関わることがあります。私は青森で在宅看護に力を入れている病院に勤務したことがあり、終末期に関しては専門的な勉強をしてきました。

    訪問看護にも携わってきたので、その経験を踏まえて、ターミナルの患者さんには「残された時間は短くても、できることがある」ときちんと伝えること、そして、ご家族の気持ちを把握して一つにしていくことの二つを大事にしています。一緒に暮らしてきた家族が「積極的な治療は終わりにしたい」と言った後も、親戚のなにげない一言で気持ちが揺れ動くようなことは少なくありません。また、最期を迎えるのは、病院か、家なのか。患者さんや家族に様々な迷いが生まれた時に、少しでも気持ちを整理できるように、誠実に寄り添いながら話を聞くよう心がけています。

  • 心を開いて自分らしい看護を続ける

    この病院で私は新顔ですが、若いスタッフにとっては「お母さん」の世代です。みんなが仕事で迷ったり、聞きにくいことがあった時にも、気軽に訊ねてもらえるような存在でありたいと思っています。入職時は「なぜ南相馬市に来たの?」とよく聞かれました。答えると、質問した相手を暗い気持ちにさせてしまうことが多いので、なんだか申し訳ないのですが、正直に話しています。

    8年前、5月のある日、夜勤明けの1時間前に「交通事故の患者が今から搬送されます」と聞いて「ここまで看て帰るから」と準備をしました。そこに運ばれてきたのは私の父親で、すでに危篤状態でした。同じ車に乗っていた夫は即死です。医療ドラマじゃないんだから、まさかこんなことがあるわけない。でも、実際に起こった現実から人は逃げることができないんだと実感しました。逃げられないなら受け入れるしかないのです。

    私は看護師として仕事をしていれば辛くてもどうにか前を向くことができました。しかし、一緒に暮らす母は受け入れられず「あの時、二人が出かけたりしなければ」と悔やみ続けて、私も苦しくて共倒れしそうになっていきました。当時の勤務先は病棟を移動してくれたり、様々な配慮をしてくれたのですが、どうしても環境を変えたくなり南相馬市に来たのです。つまり「勢いで来てしまった」のですが、不安なのは最初の数日だけで、看護部長、師長、看護スタッフみんなの応援で、すぐに自分らしい看護ができるようになりました。母は今年4月に亡くなったのですが、距離を置くことで良好な関係を保ち、私も穏やかに最期を看取ることができました。

    嵐のような時が過ぎた今、患者さんやご家族に強く共感し、落ち込んでしまうこともあります。でも、看護職を長く続けてきた私は、気持ちの切り替えが早いので大丈夫。ますます仕事にやりがいを感じ始めているところなので、これからもずっと、この仕事を続けていくつもりです。

取材者の感想

佐藤さんの周りには医療関係者が多く、小学生の時にはすでに「看護師になる」と決めていたそう。毎年夏休みになると、叔母が看護師として働く秋田県内の病院に連れていってもらい、職員や患者さんからもかわいがられていたそうです。

今、進路に迷っている若い世代にメッセージを求めると、「人が関わることが好きなら、病院見学や看護体験に参加してほしい」というアドバイスをくれました。

「今の世代はSNSが一番のコミュニケーションツールだけれど、実際に人と人が関わることで成り立っているのが看護の現場です。患者さんと看護師だけでなく、医療にかかわる他職種の連携など、人と人とのつながりを実際に目の当たりにしてほしい。看護職に向いている人であれば、医療現場に来ることで、多くのことを感じとることができるはずです」と佐藤さん。

すでに独り立ちした佐藤さんのお子さんも医療職に就いているそう。「ついこの間も、親戚の子が“おばちゃんみたいな看護師になりたい”と言ってくれたから、私の思いは伝わっているのかなと思います」と、素敵な笑顔を見せてくれました。

ライター 齋藤真弓
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