急性期から在宅まで安心の地域医療を提供
65
JA福島厚生連 鹿島厚生病院 看護部長
谷地田 友子さん
やちた ともこ
Profile
相馬市出身。白河厚生総合病院付属高等看護学院を卒業後、看護師として鹿島厚生病院に就職。急性期病棟・慢性期病棟・訪問看護ステーション・老人保健施設を経験し平成24年に看護部長に就いた。若い日に「人のためになる仕事に就きたい」と選んだ看護師の仕事に、やりがいを感じ続けて今年で36年になる。
-
地域とともにある「ケアミックス病院」
鹿島厚生病院は、JA福島厚生連が運営する県内6カ所の病院のうちの一つです。JA福島厚生連が地域の要請を受け当地区の無医療状況解消を目的として昭和27年に旧鹿島町唯一の病院として開設されました。
特に震災以降、急激に高齢化が進んでいます。多くの方たちが住み慣れたこの鹿島区で「継続的な医療」を受けることを望んでいるなかで、私たちが出した答えが「ケアミックス」です。当院は、急性期病棟(40床)と療養病棟(40床)、さらに介護老人保健施設(100床)、訪問看護ステーションを併設する「ケアミックス病院」として、急性期から亜急性期、介護、在宅まで幅広いステージの患者さんに関わっています。
震災以前から取り組んできた「ケアミックス」ですが、2011年3月からしばらくの間は変更せざるを得ませんでした。東日本大震災とその後の原発事故により、30km圏内にある医療機関では急性期の患者さんを受け入れることができなかったため、32km地点にある当院が80床全てを急性期病棟に変更して対応していたのです。
復興が進んで、市内の医療機関が再開したことや震災以降の若い世代の流出により在宅での療養が困難な方が増えたことから、現在は従来の形に戻し、少しでも長い期間患者さんをケアが出来るようにしております。
鹿島厚生病院の現状を数字でみると、年間救急車受け入れ台数は400台超、1日あたりの外来患者数200名超、月平均訪問看護取り扱い人数は40名超を数えています。看護職は約60名(正看護師約50名・准看護師約10名)。急性期から亜急性期、介護・在宅看護まで、幅広い部署を経験してもらい、看護の内容に厚みを持ってもらい「一通りこなせる」スキルを身に着けてもらいます。そのために、JA福島厚生連独自の教育制度に加えて、福島県看護協会の研修にも積極的に参加してもらいながら、一人ひとりがスキルアップできる環境をつくっています。
-
働き続けられる方法をともに模索しながら
新卒の看護師は、年に一度、JA福島厚生連の本部で採用されます。白河厚生総合病院付属高等看護学院の卒業生だけではなく、他の看護学校を卒業した人もいます。いずれにしても、ほとんどが地元の出身者です。面接時に「看護観」をしっかり確認し、夢や「こころざし」を持つ人材が集まることもあって、採用後の離職率は高くありません。
各職場に「新人を大切に育てよう」という雰囲気が浸透していることも離職の防止に役立っていると思います。基本は、こまめなコミュニケーションです。体調が悪そうな時、悩みがありそうな時は必ず声をかけ、「あなたを気にかけている」と伝えながら、「真剣に話を聴きますよ」と受けとめていくようにしています。
それでも、家庭の事情などで辞めざるを得ないこともあります。特に震災後は、保育園の受け入れ態勢がなかなか整いませんでした。その影響は現在も続いていて、育児休暇後に入れる保育園が見つからないために、職員から涙ながらに「本当は続けたいのですが」と辞意を伝えられたこともあります。
せっかく夢をもって選んだ看護師という仕事、ぜひ続けてもらいたいのが本音です。状況に応じて育児休暇を延長したり、部署の異動をするなどの提案をしますが、それでも続けることができない場合には、「また戻ってきて」と声をかけています。子どもの預け先が見つかったらパートなどで復帰してもらい、その後、改めて本部に申請をして再び正規職員として働くこともできるからです。仕事を続けたい人の想いを汲んで、応援していけるような環境が今後はもっと必要になってくるのではないかと思います。
取材者の感想
「住み慣れた地域で最期を迎えたい」という願いを叶えることができる「ケアミックス病院」は、高齢者の多い地方に欠かせない存在になってきています。南相馬市の高齢化率は今年春に30%を超え、全国の20年先を行っているそうです。今後日本が抱える課題を先取りした看護が、ここ鹿島厚生病院で行われていることになります。
一方、看護職にとって「ケアミックス病院」は、同じ職場で長く働きながらあらゆる看護を経験できるというメリットもあります。若く体力があるうちは突発的な仕事が多い急性期で働き、その後、老人保健施設や在宅で「よりそう」看護を実践することもできるでしょう。変わり続ける時代とともに地域を支えることで、自分自身が年齢を重ねたときに「安心して暮らせる」地域づくりにも貢献できそうです。ワークライフバランスを取りながら、看護師としてのキャリアを積み重ねていきたい人にとって「ケアミックス病院」は魅力的な選択肢の一つと言えるかもしれません。
ライター 齋藤真弓